2009年10月5日月曜日

各州のワイナリー・ヴァリス州1

Cave des Cailles カーヴ・デ・カイユ
Avenue de la Gase 4, 1955 St-Pierre-de-Clages
Tel 079 795 8450

オーナーのフラクシオン氏は、新進気鋭のエノロジストでもある。ワイン商で働く傍ら、醸造学を学び、醸造技術者としてスイス各地で修行、そして故郷であるヴァリスに戻り、2003年に独立。20年来の夢を叶えた。

ヴァリス州には60種類にも及ぶぶどう品種があり、それぞれに適した栽培場所があるという。彼はそれに拘り、3.5ヘクタールという彼のブドウ畑は、ヴァリス州の中南部を中心に、北はシエールから南はサイヨンまで広がっている。

そこまでの拘りがあるだけに、ワインの出来も素晴らしく、白のプティ・アルヴァン、ハイダといい、赤のピノ・ノワール、メルローといい申し分ない。ティチーノ州でも修行したことがあるというだけに、メルローの扱いがとても上手だ。Lo Grafionというメルローとテンプラニーニョの混醸による赤ワインは、力強く、個性的だ。彼はヴァリスが持つワインの潜在力を十分に引き出すと共に、新しいヴァリス・ワインへの道も同時に拓いている。

2009年8月24日月曜日

(7).スイスワインの概略

スイスワインの概略1

スイスワインはあまり知られていない。しかしスイスはれっきとしたヨーロッパのワイン生産国で、原産地統制呼称を持つ高品質なワインを生産している。何故、スイスワインはあまり知られていないかというと、主な理由は二つあげられる。

スイスは日本と同じく山国で国土の7割以上が山地となっている。従って、ブドウの栽培面積も限られたものとなっており、スイス国内で生産されるワインの量より、消費されるワインの量が上回っている。すなわち、ワインを生産しても消費に追いつかず、足りない分は輸入に頼っているわけだ。

スイスワインの多くは地域内消費の市場に依存している。また少ない耕作面積を最大限に利用するため、山間部の急傾斜地にブドウ畑が開拓されている。この様な理由から機械化や大規模化が進んでいない。そのため小規模醸造家が多く、手作業でブドウの栽培と収穫を行っている。多くのスイスワインは輸出商品になれない。

また、この様な事情の為、定評のあるスイスワインはスイス国内でさえ入手が困難になっている。醸造所に行って入手出来ればいい方で、新規顧客を取らない醸造所もある。販売は1週間にたった2時間という所もある。

スイスワインはこの様な事情でスイス国外に出ることがあまりない。しかし、スイスアルプスの清涼な水と空気を一杯に吸って育まれたスイスワインは、瑞々しくフルーティでとても美味しいものだ。しかもほとんどのスイスワインはこの様な山間部産のため、手間の要る手入れと手摘みによる、大変人手のかかった「手作りワイン」なのだ。スイスワインは丹誠込めて造られている。

世界中の国の人が一度は訪れたい、住んでみたいとあこがれる国スイス。スイスワインも一度は飲んでみたいという声を沢山聞く。しかし、スイスワインのどれから飲んでみたらいいの?と尻込みする人も多くいる。

スイスワインを定義すると、スイス以外ではなかなかみかけない、スイスのブドウ畑から収穫され、醸造されたワインで、多くは山間部で大変な手間と手摘みによって手作りされたワインといえる。赤、白、ロゼ、スパークリングと作られている。辛口から甘口まで色々な種類のワインがある。

特筆すべきは、スイスの全ての州でワインが生産されていること。隠れたワイン天国だ。ほぼスイスの公用語、フランス語、ドイツ語、イタリア語の使われる地域別でワインの特徴が異なる。因みにもう一つロマンシュ語という公用語があるのだが、これを話すのはスイス人口のわずか1%で、グラウビュンデン州の山間部で使われている。そのため、ロマンシュ語圏産のワインは造られていない。

フランス語圏ワイン

フランス語圏ワインは、シャスラぶどうを使った白ワインが中心。しかしヴァレー州では赤ワインの比率が高くなっており、同州ではウマーニュ・ルージュなどの地ブドウを使った、高品質な赤ワインが作られている。同州には地ブドウが多く、栽培葡萄品種は主なものでも31種類あり、ワインが造られている。スイスの地ワインの宝庫だ。

フランス語圏の主要なワイン産地は、ジュネーブ州、ヴォー州、ヴァレー州、ヌーシャテル州、フリブール州、ベルン州ビール湖岸。フランス語圏のワイン生産はスイス全体の76%に登る。フランス語圏ワインがスイスワインの顔だとも言える。

特にヴォー州のレマン湖沿いの地区が注目されており、ローザンヌからモントルーのレマン湖沿いに広がるラヴォー地区は世界遺産にも登録されている。ヌーシャテル州ではピノ・ノワールから作られるロゼが評判で、ウイユ・ド・ペルドリ(山鶉の目)と呼ばれている。ヴァレー州のフィスパーターミネンのブドウ畑はヨーロッパ一の標高にあり、地ブドウのハイダが植えられている。

ドイツ語圏ワイン

ドイツ語圏ワインは広範な地域が含まれるが、スイスワインの生産比率からすると17%のみ。面白いのが、この生産比率の76%と17%が言語圏別の人口比と逆になっていることで、スイス人の人口比はドイツ語圏が7割強、フランス語圏が2割弱となっている。この様に広い地域にブドウ畑が点在しているのがドイツ語圏の特徴だが、主には東スイスを流れるライン川の流域でワインが生産されている。

主要なワイン産地は、生産量が多い州順に、チューリッヒ州、シャフハウゼン州、グラウビュンデン州、アールガウ州、トゥールガウ州となる。

ドイツ語圏は赤ワインの比率が高く、特にグラウビュンデンやシャフハウゼンは8割以上が赤ワインとなっている。葡萄品種はピノ・ノワールが主に用いられいる。スイスドイツ語圏ではピノ・ノワールをブラウブルグンダーと呼んでおり、シャフハウゼン州では自州を「ブラウブルグンダーランド」と銘打っている。フルーティなものから樽熟成された力のあるものまで多様なタイプの赤ワインが作られている。

白ワインはトゥールガウ州出身のミューラーさんが品種開発したミューラートゥールガウやピノ・グリなどが生産されている。ミューラートゥールガウは何故かスイスではリースリング・シルバネールと呼ばれることが多く、中辛口のフルーティなワインが造られる。ピノ・グリからは辛口の力のあるタイプのワインが造られる。

グラウビュンデン州はライン川の源流に位置しており、同州のトマ湖というアルプスの湖からライン川が発している。まさにグラウビュンデンワインはライン川源流ワインと呼べるものだ。グラウビュンデンより下流に位置するフランスのアルザスやドイツのラインワインに共通した特徴を持ち、その源流だけあってこれらのワインより清涼感の溢れるワインが育っている。

イタリア語圏ワイン

イタリア語圏ワインはそのほとんどがティチーノ州のワインで、それと同州に接するミゾ地区と呼ばれるグラウビュンデン州のほんの一部がイタリア語圏ワインに含まれる。スイスワイン全体からのイタリア語圏ワインの生産比率は7%で、少ない様に見えるが、州別の生産比率でみると、1位ヴァレー州、2位ヴォー州、3位ジュネーブ州に次いで、ティチーノ州は第4位についている。

主なブドウ品種はメルロで、黒ブドウのメルロから赤、ロゼ、白、スパークリングまで作っている。ボンドーラという地ブドウもあり、それからふくよかなワインが造られているが、地元で消費されてしまい、スイス国内でさえ流通していない。

ティチーノ州は州の水系を2分するチネリ山を境にして、ベリッツォーナ、ビアスカ等が位置する北部のソプラチネリ、ルガーノ、メンドリージョ等が位置する南部のソットチネリに分けられている。ソットチネリの土壌が、フランスのボルドー地区で特にメルロー種に適した土壌を持つポムロールと同じであることから、ポムロールワインに似たワインが生産されている。北部のソプラチネリは土壌にミネラル分を多く持ち、ワインもミネラルを含み、長い熟成の後に本領を発揮するワインが造られている。

この他、接ぎ木のために北アメリカから輸入された、アメリカーノ種からも少量だがワインが造られており、巨峰に似た独特な香りを持つワインとして地元で飲まれている。ティチーノ産のグラッパにも良く用いられている。